写真集を詰めすぎたせいで
「あ、トートバッグ」
と思ったのは、バスが出発する1分前だった。
新幹線の棚の上に置いてきたのだ。
バッグの中には、卵パックと、イカキムチと、コーン茶の入った水筒があった。なま物ばかりだ。
取りに戻るか、バスに乗るか。
私は旅行用バッグを見た。重かった。写真集を2冊入れたからだ。本も3冊ある。全部自分でやったことである。
バスは出発した。
港の椅子に座ってからも、まだ迷っていた。やっぱり取りに行こうか。しかし旅行用バッグは重かった。何度考えても重いのである。
実家に着いてからJRに問い合わせた。
チャットで問い合わせる形式だった。便名を伝えたらすぐに見つかった。ただ、保管期間があるので、2週間後の受け取りは難しいかもしれないと言われた。近くなったらまた問い合わせてほしい、とのことだった。
そんなことがあるのかと思ったが、そういうことらしい。
帰路の日時を伝えて、私はトートバッグのことを忘れた。
思い出したのは帰る1日前だった。
自分の脳みそにリマインダー機能があるとは知らなかった。おどろいた。
チャットで問い合わせると、まだ保管してくれているとのことだった。なま物はさすがに捨てられているだろうが、カビになっていないだけましだ。腹を括って受け取り当日を迎えた。
忘れ物センターに行くと、私の前に女子高校生がいた。
落とした日傘が見つかったらしい。ところが身分証がなかった。
気の優しそうなおばちゃんが対応していた。おばちゃんも私も、心の声が少し漏れた。
全部の説明が終わりそうになったとき、高校生が言った。
「傘カバーを傘につけてもいいですか。カバーだけだと、どこかにいってしまいそうで」
おばちゃんは一瞬、奥の職員のほうを見た。それからこう言った。
「いいですよ」
高校生は傘カバーを傘につけた。完璧な落とし物ができあがった。
おもしろかった。
次は私の番だった。
受付番号を見せたら早かった。すぐに出てきた。
「なま物は捨てて、容器は軽くゆすいだくらいですので、お家でもう一度洗ってくださいね」
そう言われた。お礼を言って、トートバッグを持って帰った。
中身を確認するのに2日かかった。怖かったからだ。
開けたら、タッパーは洗ってあった。水筒は乾かしてあった。
おばちゃんはちゃんとやってくれていたのである。
よかった。